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- 杉田隆三氏 経済産業大臣認定 三木打刃物伝統工芸士 -
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二度打の妙、手づくりならではの バランスの良さを造り出す杉の鏝 杉田隆三氏

近年、新建材の開発は左官業においても技術や最適な道具を求めて多種多様な要望を鏝商品に寄せるようになってきました。また、時代と伴に忘れ去られていく鏝も数多く出てきました。鏝はその用途から、千以上の種類があると言われていますが、日々開発される新型鏝を考える時その種類はもはや掴みきれないほどとなっています。
左官職人の腕の見せ所、塗り壁の減少は寂しい限りですが、昨今の町家・古民家再生ブームにおいては、白壁の土蔵や芸術的な塗り壁など若い世代からも注目を浴びています。
その左官職人の相棒となるのが鏝です。どんなに機械化が進んでも、この工程は人の手で造り上げられていきます。だからこそ、自分の手に馴染み一体となって壁に命を吹き込む道具には厳しい選定の目を注ぎます。

杉田隆三さんは鏝部門で唯一、伝統工芸士として認定を受けました。
昭和29年、初代梶原真治氏の元へ弟子入り。夜間高校にいくつもりが「兄弟子より先に帰ることがあるか!」と一喝されたのを期に学校を諦め修行に打ち込む厳しい日々を過ごしました。子ども心にも目指す物は一人前になって独立を果たす事。強い信念がなければ灼熱の炉と底冷えのする作業場で昼夜を問わず働くことはできません。15歳の頃から67歳の現在に至るまで、半世紀を超える鏝造り一筋に生きた証しの一つが厳しい審査を経て手にした伝統的工芸品認定です。

杉田作品が誇る 自信の二度打

杉田さんの作品は、なんと言っても「二度打」にあります。一度打っただけでは鋼の組織が荒れているため、一旦灰の中で徐々に冷えさせていきます。長い時間をかけてじんわり焼きなましされた鏝をもう一度打ちつけることで締まりのある本鍛造の持ち味が引き出されます。餅も杵で打てば打つほどねばりが出ます。焼き物も粘土をこねる過程が一番のミソ。これと同じに鏝も打つのがまず第一。

鋼を打つのみでは製品になった時ひずみが生じてきます。もう一度、打戻すことこそ鏝の善し悪しを決める滑らかで揺るぎのないラインをかもし出すのです。昔ながらの鋼を叩き伸ばす鍛造と焼入れ焼き戻しと全ての工程を杉田さんがこなします。腹からヘリへの流れは正に名人芸。本焼きの仕上がりは、自然の焼き模様がついて一つとして同じものがありません。ここにも手づくりならではの感動に出会います。

バランスの良さと手に馴染む鏝は、杉田作品のみと言っても過言ではなく、遠く県外からも噂を聞きつけ職人さんたちが「自分だけの鏝」を求めて来訪されることも多く、それぞれの用途や使う人の手の大きさなどによっても細かく要望に応えます。好みの形、希望する先巾、首の高さなど、1丁だけの注文にピッタリ合致した製品で返す姿勢こそ、製造者の心意気。長年積み重ねられた勘と経験とともに、職人さんの一生の片腕を造る気概を感じます。

丁度取材に訪れた時にも、植木職人さんからの依頼で園芸鏝が1丁仕上がっていました。今ではどこにいっても手に入らない専門的な鏝が杉田さんによって蘇っていました。傍らには結婚38年になる奥様。結婚依頼、杉田さんとともに作業場で同じ時間を歩んできました。検品にかける目は、ご主人よりも厳しいとか。にこやかに微笑まれる柔らかな物腰の中に夫婦付随で歩んでこられた年月が、平坦なだけではなかったことを語って芯の強さを感じます。あうんの呼吸が自然に流れる杉田製作所の空気は、ここからもたらされているのだなと感じるとともに誰よりも杉田作品を愛し誇りに感じておられるのでしょう。
黒光りする鏝の重みが、杉田夫妻の歴史を物語っています。


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